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みずいろSS
「叩け! まじかるハンマー」



 夕食も終わり、居間でマイシスターと二人。
 いつもならノンビリと過ごすこの時間、しかし雪希はどこかそわそわとしていた。
 まあ、それは無理もないのかも知れない。
 
「……じゃあ、そろそろやるか」

 その言葉に、びくりと雪希が震える。
 
「お、お兄ちゃん……本当にするの?」
「ああ。いつまでもこんな関係を続けるわけには行かないだろ?」
「で、でも……」
「お前だって、今のままじゃ耐えられないだろ? 大丈夫。痛いのは最初だけだ。きっと」
「う、うん……」

 俺のまっすぐな視線に、雪希が顔を伏せる。
 まあ、いろいろと思うところがあるのだろう。
 だが、もう決めたのだ。
 
「さあ、いくぞ」
「う、うん」

 大きく息を吸う。
 そして、必要以上に大きな声で。
 
「ああ、困った困った」
「こ、困ったよ〜」
「はーい、困ったときはわたしにおまかせ〜。まじかるひよりんだよ〜」

 いつも通り。
 ピンクのひらひらの、「魔法少女って普通小学生なのに高校生のお前がそんなににあってどうするんだ」って感じの派手なコスチュームでまじかるひよりんがやってきた。
 
「健ちゃん、今日は何がお困りなのかな〜?」
「ああ。とっても困ってる。日和、ちょっとこっちに来てくれ」
「?」

 首を傾げつつも素直にやってくる日和。
 よし、充分近づいた。この位置ならっ……! 
 
「雪希、今だっ!」
「!?」
「ひよりん、ごめんねーっ!」

 打ち合わせ通り、後ろにまわりこんだ雪希が日和を羽交い締めにする。

「わ、わ、なに〜!?」

 驚いているが、うろたえるだけで大して暴れない日和。
 その手から素早く「まじかるハンマー」を奪い取る。

「け、健ちゃんなにするの〜?」

 涙目でじっとこっちをみる日和。

「叩く」
「え〜?」
「このハンマーで、お前を叩く」
「え〜〜? ど、どうして〜?」
「ほら、言うだろ……」

 ハンマーを構え、きっぱりという。

「ぽんこつは、叩けば治る!」

 ちょっと沈黙が降りた。
 ちょっぴりイヤな沈黙だった。

「そ、そんなこと普通言わないよ〜」
「お前が知らないだけで世間の一般常識なんだ」
「え?」
「古いテレビだって叩いて直したりするだろ? そういうものなんだ」
「そ、そうなの〜?」
 
 確かめるように後ろに振りかえろうとする日和。
 雪希はそっぽを向いた。イエスともノーともとれる仕草。でも口の中では小さく「騙されてる……騙されてるよひよりん」とか言ってそうだ。
 まあ、それはともかく。
 
「そういうわけで、叩く」
「うわ〜ん、ひどいよ〜」
「大丈夫だ。痛いのは最初だけだ……たぶん」
「たぶんって……」
「あきらめろ日和」
「ちっちっちっ」
「?」
「日和じゃなくて……まじかるひよりんだよ〜」
「……意外と余裕あるな。俺も安心して殴ってよさそうだな?」
「うわ〜ん、イヤだよ〜」

 日和は遂に泣き出した。
 いつもながら何だか見てて情けなくなるほどの泣きじゃくり。諭すように、俺は口を開く。

「いいか日和……じゃなくてひよりんか。世の中には、泣いて済むことと泣いても済まないことがある」
「……これはどっちなの〜」
「泣いても泣かなくても殴ることには変わりないからどっちでもない」
「うわ〜ん〜、健ちゃんがひどいこと言ってる〜」

 じたばたと暴れ出すひよりん。

「雪希ちゃん離してよ〜」

 そんなひよりんをがっしりと抱きしめるように捕まえたまま、雪希は悲しみをたたえた瞳を向ける。

「ひよりん……」
「雪希ちゃん……」」
「ひよりん……わたし謝らなくちゃいけないことがあるの。小さい頃、ひよりお姉ちゃんがガチャガチャ当てて、それをおにいちゃんの指輪と交換したんだけど……ずっと渡せなかったの」
「……なんで急にそんなこと謝るの?」

 ひとつ、雪希は大きく息を吸って言葉を切る。それからひどく静かな声で言った。

「今謝らないともう謝れないと思ったから……」
「そ、それどういう意味なの〜っ!?」

 じたばたと日和……もといまじかるひよりんが暴れるが、もう遅い。
 魔法のステッキはもう振り上げた。
 
「うん。このハンマー実にまじかるだ。いい感じだぞ」
「け、健ちゃんの使い方は間違ってるよ〜」
「いや正しい使い方だ。これでお前は今までにうちの皿も割った花瓶も割った食器棚も破壊した……!」
「にゃ……にゃう〜」
「さらばぽんこつっ!」
「うわ〜ん〜」

 ぽかーん。
 力一杯殴ったわりに、なんだか間の抜けた音がした。







「まじかるひよりん」
「な、なあに〜?」
「困った」
「うん〜」
「困ったな」
「うんってば〜」
「すごく困った」
「大変だね〜」
「そうじゃなくってどうにかしてくれっ! 困ったときはお前にお任せだったんじゃないのかっ!?」
「雪希ちゃんぷるぷる震えてるよ〜」
「まさか脊髄を狙った一撃が雪希に当たってしまうとは……なんて事故だ」
「そんなところ狙ったら後ろにいた雪希ちゃんに当たるのは当たり前なんじゃ……」
「ポンコツのくせにそんなまともなツッコミするなっ!」
「にゃ、にゃう〜」
「とにかくどうにかしてくれ」
「わ、わかったよ〜。ピンプル、パンプル、ロリポップン。マジカル、マジカル、るんららぁ。そ〜れ、雪希ちゃん治れ、にゃうーん」
「………」
「えとえと、救急箱〜」
「………」
「たいへん〜、たいへんだよ〜」
「おい、ひよりん?」
「大変だよ〜」
「魔法は?」
「あたふた、あたふた〜」
「ほら包帯は必要ないだろ? だから額に乗せるのに台布巾使うなっ」
「にゃ、にゃう〜」
「……ひよりん?」
「あ、雪希ちゃん。目が覚めたんだね。よかった〜」
「ひよりんが助けてくれたの」
「えへへ〜」
「……ごめんね。ひよりん。ひよりんにひどいことしちゃって……」
「い、いいんだよ〜」
「ひよりんは本当に役に立つね」
「えへへへ〜」




「ねえお兄ちゃん……」
「なんだ、マイシスター?」
「大丈夫かな? 日和お姉ちゃん、なんだかブツブツ呟いてゆらゆら揺れながら笑ってるよ」
「大丈夫だ。なにしろマジカルハンマーだからな」

 ぶん、と一振り。うん、いい音だ。
 
「ステッキじゃなくてハンマーなのが通好みだよな」
「ね、ねえ? ひよりん大丈夫なのかな?」
「えへへ〜、雪希ちゃん、そんなに感謝されると照れるよ〜」

 ひよりんはふらふらしながらなにかよく分からないことを呟いている。
 
「大丈夫だろ? 明日も早いし寝るぞ」
「う、うん……」

 ドアを閉めるとき、
 
「えへへ〜、まじかるひよりんは今日も大活躍〜」

 なんて声を聞いた気がした。
 やっぱり。
 叩いてもダメ立ったような気がした。でもそれが分かっただけでも今日のことは有意義だろう。うん、そうだ。きっとそうに違いない。

「ぐすん。ひどいよ〜」







あとがき
 ねこねこソフト好きなのに「朱」のSSだけで「みずいろ」がないのはおかしい! というよく分からない理由で勢いだけで書き上げたSSです。
 「いつもハンマー振り回しているひよりんが逆にハンマーで殴られたら」というネタだけで書いたネタ。いや、叩かれるというのは既に「おかえしCD」でやっていたような気もしますが、一応。
 それにしても健二、ひどい(^^;
 よかったら、感想下さい。メールメールフォーム掲示板などでどうぞお気軽にどうぞ。


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