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ストレンジのーまるデイズ
第八話 決意 | 扉を開くとそこには青空が広がっていた。 抜けるような蒼。どこまでも広がる空。ただただのんびりと漂う白い雲。 空には自由があった。 ……ああ、空を漂う雲になりたい……。 そんな幻想を抱いてしまうぐらい、いい感じの青空だった。 結局名土先輩を引っ張ってきたのは屋上だった。 授業も始まろうという時間、廊下は静かすぎて周りの教室に会話が筒抜けになってしまう。学食でのんびり、というのも授業時間中に行ったら人目があってまずい。メイドさんでいっぱいであることも予想されるため却下。校舎裏という手もあったが屋上の方が近かった。 走ってきたせいか名土先輩の息は荒い。 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァン……」 息は荒い、と言うより絶え絶えと言う感じだ。顔も上気して真っ赤だ。 「大丈夫ですか? ずいぶん息荒いですけど……」 「ええっ……だいじょぶっ……です。でも……すご、くて……私、何度か……ハァ……のぼりつめてしまって……」 何度か上りつめたって……屋上に上がってきただけなのに変な言い方をするものだ。階段を登るのがそんなに辛かったのだろうか? また例によってちょっとぼんやりした夢みるような瞳でそんなことを言うものだから、調子が狂ってしまう。 「ちから、強いんですね……」 「あ……ご、ごめん!」 先輩の腕を握ったままだった。あわてて放す。 離れる手を追うように先輩の両手が伸びる。 細くたおやかな手がそっと触れてくる。その手は俺の手を愛おしむように伝う。 ……なんだか妙な雰囲気だった。 「太いんですね……」 「そうかな?」 「たくましい……」 「そ、そうかな?」 運動はそこそこできる方だ。筋肉も並以上にはついているだったが、こう面と向かって言われるとなんだか照れ臭いものがある。 「こんな太くてたくましいのに乱暴にされて、私……私、何度も……」 「乱暴って……そんな大げさな。すこし引っ張り回しただけじゃないですか……痛かったですか、腕?」 あんなことがあってちょっとむかついたのも事実だ。無意識にすこしばかり力を入れすぎてしまったのかもしれない。 お返しとばかりにちょっと握っていたところをさすってみる。 「あ……あ……ん!」 眉根を寄せ、鼻にかかったような声を上げる。痛い、のか……? 「痛みます? まいったな、そこまで強くした覚えはないのに……」 「いえ、大丈夫……大丈夫です。痛いわけじゃないんです。痛くても、私大丈夫ですし……痛い方がいいのかも……」 「え……?」 「あ……あ! そ、そこは……そこはダメっ……!」 「わ、すいません!」 「ん……」 慌てて手を引くと、先輩はなぜか名残惜しそうに目を閉じ、切なく吐息を漏らした。 「やっぱり痛いんですか?」 「いえ……ちょっと敏感になっていただけみたいです……」 「? ほ、本当に大丈夫ですか?」 「ええ……素敵でした……」 相変わらずよく分からない先輩だった。 ……って、こんなことしている場合じゃない。 たしかに少しばかり乱暴な振る舞いをしてしまったかも知れない。しかしそれはそもそも先輩が原因でもある。毅然とした態度で当たらなくてはならない。 「大丈夫……って言うんなら本題に入りますよ?」 「!」 その一言に名土先輩の顔が引き締まる。引き締まる、と言っても硬い表情になったわけではない。無駄な力の入っていない、しかし緩んでいない真剣な顔。だがあまり張りつめた感じを受けないのは、その身から溢れる自信とそれによる余裕か。まあご主人様に緊張を強いるまじめメイドというのも変だからな。このへんはさすがメイドチャンピオンと言ったところか。 「なんで今朝はいきなり教室に来たんですか? それも俺のことを『ご主人様』って……」 「だって、ご主人様……」 「俺は・ご主人様じゃ・ない」 あえて強くハッキリ言う。先輩はすこし困ったような顔を見せるがすぐにそれは微笑みに変わる。 「では、竜ヶ崎様と呼ばせていただきます」 「さ、様!?」 自分より年上にそんな敬称を付けて呼ばれるのは初めてで戸惑ってしまう。”ご主人様”という呼び名こそ使わないものの、やっぱりこの人俺のメイドのつもりなのか? 戸惑う俺の前で、ぽんと先輩が手と手を合わせる。そして、笑顔。それはいかにも「なにかいいことを思いつきました」いう感じがあった。 「お話の前に、なにかお召し上がりになりませんか?」 続く予想外の問いに、え、と口を開くと、名土先輩は屋上の入り口脇の影へと入る。ぼうっとする俺の前に運ばれてきたのは小さなテーブルとパラソル。 手際よくテキパキと組み立てられた。その周りにはイスも配され、ご丁寧にテーブルクロスまであった。メイドチャンピオンである名土先輩の敷いたそれは皺一つない。 即席ながら立派な屋外カフェみたいなものが出来上がった。 「お待たせいたしました」 優雅に言うと、先輩は俺に席を促してくる。 「あ、ああ……」 なんだか目の前の展開についていけず、でもなんとなく座ってしまう。 あまりに完璧に作られたお茶の席は座った方が自然に思えてしまったからだ。 「どうぞ」 食器のぶつかる音一つ立てずに出されたのは、教室で出されたのと同じく紅茶だった。きちんとソーサーの上に乗った、 カップを手に取り、口を付けてみるとほのかな甘さがあった。 「砂糖のお加減はよろしかったでしょうか?」 「ああ、ばっちり」 文句なく俺の好みの甘さだった。それに口の中に広がる上品な紅茶の香りが何とも言えない。 「クッキーもよろしかったらどうぞ」 テーブルの中央には大皿。その上にはクッキーが漏られていた。 食べようと手に取るとほのかに温かい。焼きたてのようだ。その感触とあまい香りが食欲をそそる。 早速食べてみた。まずサクサクした歯ごたえ。次にふんわりした舌触り。そして押さえた甘さが口の中いっぱいに広がる。 うまい。 その一言しか頭に浮かばない。あんまりうまくてどんどん食べてしまう。5枚ほど食べたところで口の中がぱさついて来たので紅茶を一口。そこでようやく一息つくことができた。 「うまいな……これ、高かったんじゃないんですか?」 「いえ。私の焼いたものです」 「へえ……」 素直に感嘆の声が漏れる。紅茶もクッキーも、本当においしかった。特にクッキーは専門の店で売ってる高級品だ、と言われたらまったく疑わず信じてしまうほどのうまさだった。教室で出してもらった紅茶もうまかったが、やはりこういうお菓子があった方がいい。晴れた屋上でのティータイムもなんとも……って違う。 「俺はこういうことをしにきたんじゃないっ!」 だん、とテーブルを叩き叫ぶ。紅茶がこぼれそうなほど机が揺れたのは自分でもやりすぎに思えたが、そうでもしないと振り払えない空気があった。このままノンビリお茶を楽しんでしまいたくなる、抗いがたいまったりした空気が。 「俺はっ! 昨日きっぱり断ったのにどうして先輩が俺の所に俺のメイドとして来たのかっ! そのことを聞くために来たんだっ!」 一気に言ったらちょっと酸欠気味になってしまう。荒くなった息を整え、なるべく重く静かな声を絞り出す。 「話してくれるよな、名土先輩?」 視線の先には主人の言いつけを待つメイドの姿――名土先輩。 「話すんですか……?」 「そうだよ。昨日俺はきっぱり断っただろう? それなのにどうして俺のクラスに押し掛けてきたんだ? それも”ご主人様”なんて呼んで……! それを聞かなきゃ納得できない」 「昨日のことから……話さなくてはいけませんか……?」 「当たり前だっ」 なぜかもじもじしだした先輩に、話すよう強く言う。とにかくまずは昨日のこと。先輩が、俺の拒絶をどう受け取ったか知らないことには話にならない。そうでなくてはここで「俺のメイドになるな」と言ったところで同じ事の繰り返しになってしまうかも知れない。 先輩は頬を染め、口元に手を当てもじもじとしている。その様子は照れているように見えるけど……。先ほどの緊としたメイドとしての表情はどこに行ってしまったのか。瞳は潤んで頬は赤く染まりうっすらと笑みを浮かべた、例の状態になっている。 この状態の先輩に下手なことをするのは得策ではない。俺は先輩が話し始めるのをじっと待つ。 やがて、先輩は顔を上げゆっくりと語り始めた。 「昨日……昨日、あのあと……竜ヶ崎様が戻ってきてくれるかもしれないと思いまして……ずっと待ってしまいました……」 「え?」 口から出たのは自分でも間抜けに思える疑問の声。だって予想外だったからだ。ああまできっぱり言ったのに、どうして俺が戻ってくるなんて思ったんだ? 目が合うと、また先輩は恥ずかしそうに目を伏せてしまう。そして、声を小さくしてで話は続けられた。 「私……今まで叱られてもそのまま放って置かれたことなんてありませんでした。ですから竜ヶ崎様がまた来るかも、あと少し待ったら来てくれるかもと……思ってしまったんです……」 「あー、……そうなんだ」 気まずさを感じて後ろ頭をぼりぼりとかく。 ……全然そんな気はなかった。あのときは自分の言いたいことだけ言って、すっきりして……ただそれだけだった。 「でも、来るはずがないと……私にも、本当は分かっていたんです。でも、ひょっとしたらと思って、思ってしまって……そうしたら動けなくなってしまいました……。そんな自分が惨めで情けなくて思えて、自分がご主人様にメイドになることを断られたダメなメイドだと。そう自覚する毎に身体がどんどん熱くなって……熱いものが身体の内側からこみ上げて……」 「こみ上げてきたって……怒りが?」 ちょっと引きつつ質問してみる。 先輩はゆっくりと首を左右に振る。 「いいえ……違うものだと思います。頭が真っ白になって、切ないくらい熱くて、押さえきれないほど強くて、波のように引いては押し寄せて……私、何度も、何度も……!」 熱に浮かされたように呟き、さらに赤くなる。顔を伏せ、フルフルと震える。 いったい名土先輩の中で何が起こったのだろう? やっぱりこの人なにかの病気じゃないだろうか? ”何度も”っていったい……? 疑問は尽きなかったが、先輩の様子から「聞かない方がいい」と本能が強烈に訴えかけてきたのでやめた。 そのまま、しばらく沈黙が降りる。 「あ、あ……すいません……思い出したらまた身体が熱くなってしまって……」 「そ、それはいいから……それで、どうなったんですか?」 「それで、それで……いつの間にか日が暮れていて……そうしたら屋上のドアが開いたんです。竜ヶ崎様が来てくれたのかと思って心臓が高鳴って……どうしようもないぐらい胸が高鳴って……」 「そこにいたのは誰だったんですか?」 真っ直ぐ帰った俺じゃないことは確かだった。 「見回りに来られた……用務員の方でした……」 ああ、この人そんな時間までここにいたのか。 「その時、思い知ってしまいました。やっぱり竜ヶ崎様は来ないんだって……やっぱり竜ヶ崎様のメイドにはなれないんだって……そうしたら、いままで押さえていたものが切れてしまって……頭の中がまっしろになってしまって……わたし、お恥ずかしい話なのですが……」 先輩は顔を伏せ、両手で覆ってしまう。耳まで真っ赤になってしまっている。 「気を失ってしまいました……」 蚊の鳴くような声で、そう言った。 「……なんで……?」 呟きに答えるものはなく、ただ風だけが行き過ぎる。 先輩はなにをそんなに恥ずかしがっているのだろうか。気絶っていうのは恥じゃないはずだ。でも先輩にとってはそうじゃないってことなのだろうか。 また沈黙が降りる。夏休み明け二日目の、それも一時間目。体育をするクラスなどないためか、屋上はひどく静かだった。 まあ、こうしていても仕方ない。話を本筋に戻そう。 「じゃあ先輩、メイドになるの断られたって分かってたんだろう? だったらどうして俺の所に来たんだ?」 その問いに顔を上げた名土先輩は、あの熱に浮かされたような顔ではない。緊張感がありながら見る者に安堵感を与えるあのメイドの顔だった。……まだ頬は赤いままだったけど。 「竜ヶ崎様……あなたにご主人様になってもらいたいからです」 きっぱりとそう言った。 「たったいまそれを断ったって確認したと思うんですけど……」 「ええ。それは分かっています。ですが竜ヶ崎様が私をメイドにしていただけない理由は何ですか?」 「それは……」 答えようとしてつまってしまう。明確な答はない。ただ先輩、確かにメイドとしては優秀なのかも知れないけど時々よく分からない状態になるから。叱ったりするとなんだか手のつけられないよく分からない状態になるから、それが恐いというのが理由と言えば理由だ。たった。今もそうだったし。 でもそんなこと面と向かって言えないよなあ……。 言葉に詰まる俺に、名土先輩は言葉を続ける。 「私のことをよく知らないからだと思うんです」 「へ?」 「私のことをよく知っていただければ竜ヶ崎様もきっとメイドにしてくださると思うんです」 そう、胸を張って言った。 「随分自信たっぷりですね……それに自分のことアピールするメイドなんて……」 メイドチャンピオンと言うぐらいなら実力があるのだろう。誇ることもするのかも知れない。 でも、それはメイドのイメージと違うような気がした。メイドというといつもは後ろに控えていて、用事を言いつけるとパタパタとやってきてやってくれる……そういうものじゃないのだろうか? 疑問の視線を、余裕のある微笑みが受け止める。 「竜ヶ崎様はひとつ勘違いをなされています」 「勘違い?」 「メイドは働いてこそ、メイドです。自分の能力を理解し信頼していなければご主人様にお仕えすることなど出来ません。そしてそれを相手に示すことが出来なければ働き口を見つけることも出来ません」 「じゃあ……朝来たのは自分のメイドとしての能力を見せるため?」 「その通りです」 「頼んでもないのに紅茶出したりクッキー出したりしたのも?」 「その通りです」 名土先輩はよどみなく答える。 「竜ヶ崎様は一流のメイドの条件はご存知ですか?」 「へ? い、一流?」 「三流のメイドはご用を言いつけられてから準備を始めます。二流のメイドはどんなご用にも対応できるよう常に準備を怠らないようにします。ですが、一流は違います」 準備を整えていて、二流……? 「ご主人様のことをいつでも想い深く理解し、ご主人様のお望みをすぐに叶えられるようあらかじめ準備を怠らない――それが一流のメイドです」 思い出す。 今朝、紅茶を出されて俺は疑問も持たずに飲んだ。まるでそれが当たり前であるかのように。そして飲んだ後、「いま紅茶が飲みたかった」ということを自覚した。 そのあと、屋上には既にテーブルがおいてあった。すぐに組み立てられ、そこに出てきたのは”淹れたて”の紅茶と”焼きたて”のクッキーだった。 出されたら自然に食べてしまった。そうだ、俺は朝食抜きで空腹だったのだ。だから何か食べたかったし、そしてクッキーはうまかった。俺の好みだった。 どちらも、飲んだり食べたりしてから気がついた。それが自分に必要だったと言うことに。 それが全部あらかじめ用意されていたのだ。 出会ったのは昨日が初めて。話したのもわずかな時間。それだけで俺がなにを要求するかを見抜いて、あらかじめ全てを準備していたというのか。 これがメイドチャンピオンのちからなのか……!? 俺の心の中の疑問に答えるように、名土先輩はゆっくりとうなずいた。 「私は、一流のメイドとして竜ヶ崎様に仕えてみせます。あなたが望むのなら、私はどんなメイドにもなってみせましょう」 言葉に圧倒される。先輩は「自分が一流のメイドだ」と言っているのではない。「一流のメイドとして俺に仕える」と言っているのだ。それは自分の能力を過信しているのではない。もちろん傲慢でもない。真摯に自分の全身全霊を持って仕えると言っているのだ。 だが……しかし。最後の一言。それだけは認めることができなかった。 「やっぱり先輩を俺のメイドにすることなんて出来ない」 「竜ヶ崎様っ……!?」 「先輩に言ったよな? ”俺が何なのかは自分で決める”って。俺の望むメイドになるってことは、自分のあり方を俺に決めてもらうって事だろう? そんなの……」 「違いますっ!」 先輩は叫んだ。今までで、一番強く。 そして先輩は俺を見つめる。風のない月夜の湖面のような静けさをたたえた、深く黒い瞳。 「私は私の意志で竜ヶ崎様により良くお仕えできるメイドになりたいのです。竜ヶ崎様の要求に対して、自分で考え、自分でよりよくありたいと思っています。それは決して自分のあり方を竜ヶ崎様に決めていただきたいと言うことではありません。竜ヶ崎様の理想になりたいのではなく、自分の描く、竜ヶ崎様の理想以上のメイドになりたいのです」 責めるふうでもなく、ただ静かに、静かに。先輩は語る。 「あなたがあなたであろうとするのと同じように、私は私であるために……竜ヶ崎様。あなたのメイドになりたいんです……」 じっと見つめてくる先輩の瞳にはウソはない。ただ真摯な情熱だけがあった。 本気、なのか。でも……。 「でもそんなふうに考えるようになったのも、昨日竜ヶ崎様に叱られてからなんです。それまでは、ただ模範的なメイドであろうとしました。自分でどんなメイドになるか、真剣に考えてはいなかったように思います」 夢みるような瞳で先輩は語る。それが、今の俺には眩しく思えた。 「昨日竜ヶ崎様に叱られて……ああ叱られて……あんなに罵られて……!」 なんだかまた頬を染めて身をくゆらす先輩。 俺は目を逸らした。その様子が眼に耐えなかったわけじゃない。……自分を恥じたからだ。 「俺は俺であることを押し通そうと思う。だから、それだから……先輩がそうありたいのなら、俺が邪魔する権利はない」 そう。自分の主張を通すなら、相手の主張もまた認めなくてはならない。それが相反するものなら別だけど、ただ自分だけを通そうとするならそれはワガママでしかない。 でも……。 俺の葛藤をよそに、先輩は明るい弾むような声で問いかけてくる。 「それならご主人様になってくださるんですか!?」 見れば、先輩は満面の笑顔。瞳を輝かせて、期待に満ちた視線を向けてきている。 やめてくれ、俺は、俺は……! 「いや、なれない!」 「ええっ!?」 「先輩のご主人様にはなる資格なんてない! 俺は、俺は……そんな立派な人間じゃないんだ!」 ああ、と声を上げて先輩はしゃがみ込む。 「そんな……ここまで期待させてだめだなんて……そんな……」 ブルブルと震えながらそんなことを呟いている。 ショックだったんだろう。しかたない。でも……。 「ああ……また突き落とされた……こんな……すごい……いい……ああ、ああ……!」 ……なんか微妙に俺の思う「ショック」なんじゃないような気がしてきた。 でも俺はその先輩にも答えられない。そんな資格が、ない……。 「なによ、どうしてだめなの?」 頭の上から降ってきた言葉に俯いていた顔を上げる。 そこには陽光を跳ね、炎のように輝く紅のポニーテール。 「聖……」 「わたしも来たの〜」 隣にゆらゆらやわらかく揺れるのはひなただ。 「言いたいことだけ言って、理由は話さない……そんなの反則よ。ちゃんと話さないと先輩も納得できないわよ」 「聖……どうして?」 「ひなたが心配して、ね。仕方なく来てやったわけよ」 「うそなの〜。聖ちゃんが来ようって言い出したの……」 スパァン! ひなたの顔が消えた。ハリセンの一撃に身体の柔らかいひなたは視界外まで首を曲げ、でもそれはすぐに戻ってくる。ゆらゆらと揺れるひなたの顔を見て、なんだか馬鹿馬鹿しくなる。悩まなくちゃいけないことだけど、悩んでも仕方ないこと、って言うか……。 「そうだな……話さなきゃ、先輩も納得しないよな……」 すごく情けない話だ。誰にも話したことのない話。でも、話してすっきりしたいと思っていたのも事実だ。 「聞かせていただけるんですか?」 いつのまにか復活した先輩。苦笑する。三人揃って俺が話すのを待ちかまえている。 苦笑する。なんだよ、この状況は。 でも、なんだか……話を聞いている人がいるというのは、それだけでありがたいと思えて。 「話してやるよ。どうして俺がこの学校に転校してきたのか。でも……情けない話だぞ?」 俺は口調だけは気楽に、そう答えるのだった。 |
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