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「む、携帯電話が鳴っている。この時間には珍しいな」
『もしもし?』
「坂上 タケルだ」
『坂上! 私だ私!』
「………」
『どうした?』
「……いまどきオレオレ詐欺か。しかも工夫がない。出直せ」
『ちょっ……ブツッ』
「やれやれ。くだらぬ犯罪は無くならないものだな。
……む、またコールか。しかも同じ番号から……?」
『坂上! 私だ!』
「……いいだろう。ちょうど退屈していたところだ。
しばらくつき合ってやる。貴様のその稚拙な詐欺テクニックを振るうがいい。
全て叩きつぶしてやる」
『坂上……わからないのか……?』
「なんの話だ?」
『私だ! 綾川 サツキだ!』
「サツキ……?」
『そうだ!』
さつばつサツキさん 番外編その7
「俺はお前に携帯の番号を教えた記憶がない」
「お前から電話があるとは珍しいな」
『……坂上、私はショックだ。
君になら声だけでわかってもらえると思ったのに……』
「愚かなことを言うな。声だけでわかる……その思いこみこそが
くだらぬオレオレ詐欺の温床となったのだ。
お前も気をつけるがいい」
『それでも、すぐにわかってほしかった……』
「………」
『……つき合っているもの同志の電話というのは、
そういうものじゃないんじゃないのか……?』
「俺にはそうした概念はよくわからないが……そうだな。
そういうものかもしれないな」
『だったら……!』
「配慮が足らなかった。その点については詫びよう。
だが。だがな、サツキ」
『なんだ?』
「俺はお前に携帯の番号を教えた記憶がない」
『………』
「………」
『そ、それは……』
「なぜ知っている?」
『えーと、あのその……』
「ああそうか。つき合うようになってからそうした傾向を見受けなかったから
すぐに思い浮かばなかった。お前にはややストーカーの気質が見られたな」
『さ、坂上! それはそのっ……!』
「サツキ。己の性癖は恥じるものではない。
むしろ誇れ。己を知り、己を信じ、そして誇れるほどに磨き上げろ。
……だが、そうだな。それでもストーカー行為の大半は法律に触れる。
それだけは心しろ」
『うう……坂上、君のことをちょっと驚かせようと思っただけなのに……
ストーカー認定されてしまうことになるとは……』
「で、だ。こんな夜分になんの用だ?」
『携帯を新調したんだ……誰かにかけてみたくなって……
それで、坂上、君にかけたんだ。ビックリする君の声を聞きたかった……』
「……俺は常々お前に驚かされているわけだが、
それでもまだ足りないと言うのか?」
『そ、そういうのじゃなくって……
それに……それにそれに!
つき合っている者同士というのはいつだって声を聞きたいものだろう!?
携帯電話があればそれが簡単にできる。
どうしていままでこんなことに気づかなかったんだろう……
そう思ったらたまらなくなって……!』
「それでこんな時間に電話してきた……そういうわけか」
『そうなんだ……でも、すまなかった。君の都合も考えずこんな夜遅くに……』
「いや、時間は構わない。しかし、電話……電話か!
そうか、その発想はなかった。
なんということだ、今までこんな簡単な方法を見落としていたとは……!」
『坂上……?』
「よし、いいだろうサツキ。つき合っているもの同士らしい会話をしようじゃないか」
『さ、坂上っ……わかってくれたんだな。嬉しいぞ!』
「ああ。では始めよう」
『うんっ!』
「まず最初に確認しておくが……サツキ、今お前はどんな格好だ?」
『え、ええっ!?』
「答えろ」
『う、うん……君に初めて電話するのだから、なんかちゃんとしないとなぁ、
と思って、身体を綺麗にしてからの方がいいかなあって……
お風呂上がりのパジャマ姿だ」
「ほう?」
『……って私は何を言ってるんだーっ!?』
「いやいや素晴らしい。エクセレントだ」
『そ、そうだろうか……?』
「それで、どのような下着をつけている?」
『……え?』
「ハァハァ」
『なぜ息を荒くするっ!?』
「こうした質問をするときは息を荒くするのが作法というものだ」
『坂上……君が先ほどからなにをしようとしているのかわからない』
「サツキ。俺はたった今思いついたのだ。
世間一般ではありふれた、しかし俺達にとっては革命的なアイディアを、な」
『アイディア……?』
「お前は感度が高い。過敏すぎるがゆえにすぐに気を失ってしまい、
思うようにエロが進まない。
当初のスケジュールから実に3ヶ月もの遅延が見られる。
いや、遅延と表現するのは適切ではないな。
まったく進んでいない……それが現状だ」
『そ、それは君がテクニシャンすぎるからっ……!』
「いずれにせよ、このままでは現状で足踏みするばかりだ。
しかし、しかしだ。直接接触がだめならどうするか?
簡単だ。別の方法をとればいい」
『別な方法……?』
「直接が駄目なら間接だ。
これから指示を出す。お前はその通りに動き、その成果を報告するのだ」
『なにをするつもりなんだ……?』
「遠距離恋愛するカップルもよくやるそうだな。
いわゆるテレフォンセッ……」
『わーっ!!』
「どうしたサツキ。いきなり叫んだりして?
声を上げるのはまだまだこれから……」
『そうじゃないんだ坂上っ!
つき合っているもの同士の電話というのはそういうのじゃないっ!
初めての電話でいきなりそんなのはいやだーっ!』
「嫌か。なら、仕方ない」
『あ、あっさりひいてくれるんだな』
「当然だ。俺はお前の嫌がることをやりたいわけではない。
それにこうしたことはお互いの気分の高まりが重要になる。
拒否された時点で失敗だ」
『そうか……うう、なんだか心底ほっとした……』
「で、どうする?」
『え?』
「俺の提案が駄目だというのなら、お前に従おう。
お前の言う「つき合っているもの同士の会話」とはどんなものだ?」
『それは……
ただ声を聞きたいだけで電話してみたり、
他愛のない会話をずっとして……それだけで幸せみたいな……
そういうのだっ!』
「先ほどまでの会話で、今挙げた条件はおおむね満たしていると思うが?」
『………』
「どうだ?」
『言われてみれば、ただ君の声が聞きたいだけで電話をして……
君との他愛のない会話はいつもこんな感じで……』
「それで、幸せなのか?」
『うん……幸せ……』
「……そうか」
『うん……』
「………」
『………』
「……長話になってしまったな。寝不足は体に良くない。
健全なエロは健全な肉体にこそ宿るものだ。
そろそろ切るぞ?」
『あ、待って欲しい!」
「まだなにかあるのか?
『最後にひとつ……お願いしていいだろうか?』
「言ってみろ」
『おやすみのキス……とか、してくれないだろうかっ!?』
「物理的に不可能だ」
『そういうことじゃなくて……!
電話越しのキスって、なんかロマンチックで憧れていたんだ!』
「なるほど、そういうことこか。ならゆくぞ」
『う、うんっ……!』
「チュッ」
『………』
「これで満足か?」
『坂上……今のは舌打ちだろう?』
「よくわかったな。大したものだ」
『ふざけないでちゃんとして欲しいっ!』
「わかった。なら、これでどうだ?
チュッ」
『……坂上。それは違うだろう。と言うかそもそも女性の声に聞こえたのだがっ!?』
「ああ。今のはお気に入りのエロゲから抽出した「ちゅぱ音」の一つだ。
いつでも聴けるようにしてある。いい音色だったろう?」
『坂上、いい加減にっ……!』
「ちゅっ」
『………』
「どうした、サツキ? 今、本当にやった。これでいいのだろう?」
『坂上、どうしよう……?」
「?」
「腰が抜けてしまった……』
「なんだと?」
『ああ、ベッドの上で話していて良かった……そうじゃなかったら大変だった……』
「サツキ、お前は……」
『ありがとう坂上。今夜はとてもよく眠れそうだ……』
「……それは良かったな。では、そろそろ切るぞ。ゆっくり休め」
『ああ、ちょっと待って欲しい!』
「今度は何だ?」
『ちゅっ』
「………」
『ふふ、おやすみっ! ……ブツッ』
「……やれやれ、騒がしいやつだ。
しかし……俺も未熟だ。まさか最後の一言、
あれだけでここまで身体が反応してしまうとはな。
お前はよく眠れると言っていたが、俺の方は眠れなくなってしまったぞ。
ふふ、サツキ。やはりお前は、世界一エロい。俺にとって最高の彼女だ」
了
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