さつばつサツキさん トップへ サイト トップへ

「入るぞ……」
「母さんか? すまない、まだ一人にしておいて欲しい。
 夕飯は昨日と同じ、タマゴの雑炊がいい。あれはとてもおいしかった」
「サツキ……」
「一人にしてくれ……!
 確かに人と話すことによって癒されることもあるのかも知れない。
 でも、まだその段階にすら至ることができていない。
 時間が必要だ。しかし……」
「………」
「時間が全てを解決してくれると言うが、苦しいときと言うのは
 どうしてこんなに長く感じるんだろう。
 早く過ぎ去って欲しい。もう苦しいのは嫌だ。
 忘れられるなら忘れてしまいたい……」
「そうか、忘れたいのか」
「……すまない。嘘だ。本当は忘れたくなんかない!
 だって、だって私は、坂上のことが……今でも、あの人のことが……!」
「サツキ、俺を見ろ!」
「………」
「わかったか? 俺だ」
「……ああ、母さん。私は相当まいっているようだ。
 母さんの顔が坂上に見える……」
「サツキ、しっかりしろ」
「しっかり……それは無理な相談だ……」
「そしてちゃんとしろ」
「それも無理だ……今日の母さんは無理ばかり言うな……
 まるで坂上みたいだ……」
「そうじゃない。サツキ、お前は自分が見えていない」
「自分が見えていない……そんなことはないさ。
 自分がどんなに駄目な人間か、思い知っているところだ……
 坂上はきっと、本当はエロいとかでないところで私を嫌ったのだ。
 彼は気をつかってそのことに触れなかったに違いない。
 そんなこともわからない私だから、ふられてしまったのだ……」
「そういうことではない。現状を見ろ。お前は今、体調を崩しベッドにいる」
「? ああ、そうだ」
「そして今まで寝ていた」
「眠れなかったよ……夢と現を行き来して、浮かんでくるのは悪いことばかり。
 だるくて最悪な気分だ……」
「とにかくベッドの中にいた。ゆえに寝乱れている」
「そうだが……」
「だから、パジャマの前ボタンが外れている」
「ああ、そうかもしれない……」
「だからお前がノーブラであることがわかってしまう。
 なぜわかるかと言えば、胸が見えている。生で。
 いわゆる『胸チラ』というやつだ」
「………」
「………」
「いいんだ。別に見られて困るものじゃない……。
 そんなこと、どうだっていい」
「だが……だがな、サツキ。
 胸チラはお前には高度すぎる技法だ。
 そして今の俺には……情けない話だが、少々刺激が強過ぎる。
 俺らしくないと思うかも知れないが、そんな有様では落ち着いて話ができない」
「さっきから何を言っているんだ、母さん……?」
「サツキ、いい加減にしろ。ちゃんと俺のことを見ろ」
「俺を見ろって……?」
「………」
「坂上!?」
「ああ」
「坂上ーっ!?」
「俺だ、サツキ」
「ええええっ!?」
「サツキ。腕を広げて驚きを表現をするのはやめろ。
 前がはだけて大変なことになっている」
「え、え、ええーっ!?」
「く、今の俺には直視に耐えない。
 だが、見ずに終わらせるにはあまりにもおしい」
「うわうわうわわーっ!?」
「よし。とりあえず携帯のカメラで撮影しておくか」
「坂上坂上坂上ーっ!?」
「サツキ、撮るぞ」
「ってなにやってんだ坂上ーっ!?」

 さつばつサツキさん
 
 第十四話「君からの一言が欲しい」

「……落ち着いたか?」
「………」
「サツキ、そう睨むな」
「……どう言うことなんだ、坂上」
「見舞いに来た」
「……君はふった女の見舞いに来るというのか」
「……すまない。正直に言おう。見舞いに来たというのは言い訳だ。
 俺は君に、告白しに来た」
「!」
「聞いてくれるだろうか?」
「お断りだ」
「サツキ……!?」
「………」
「……わかった。もう手遅れだったのだな……」
「………」
「いままですまなかった、サツキ。
 さようなら、だ」
「帰るのか?」
「ああ。すぐに去る。不快な思いをさせて申し訳なかった」
「本当に帰るのか?」
「心配するな。嘘はつかない。いますぐ出ていく」
「……ま、待て! わざわざ来てなにも言わずに行くのかっ!?」
「これ以上お前を傷つけることになるのなら、やむを得ない。
 本当に……すまなかった」
「………」
「じゃあ、な」
「……待って……」
「!」
「待って、行かないで!」
「サツキ……」
「ごめんなさい! 『お断りだ』なんて言ったのは、嘘なんだ!
 寝込んでいる間、君とのいろんな事を思いだして、それで、それで……!
 君が言ったこと全部全部思いだして、あのときのことを思いだして……!
 ちょっとイジワルしてみたかっただけなんだ!」
「イジワル……?」
「君が今ここにいるなんて、信じられなくて、さっきまで見ていた
 悪夢の続きみたいで……だから、仕返ししたいと思って……。
 でも違うんだな? 君は本当にここにいるんだな?」
「ああ、俺はここにいる。だが……ここにいても、いいのか?」
「当たり前だ! ……行っちゃ、イヤだ……!」
「わかった。ここにいる。どこにも行きはしない」
「よかった……」
「お前はそんなになるまで傷ついてしまったのか……」
「いいんだ坂上……今君がここにいてくれるなら、それでいい……」
「……サツキ。まず言っておきたい。
 あの日、別れようと言ったこと……あれは、俺の間違いだった」
「!」
「虫のいい申し出ですまないが……なかったことにしてもらえないか……?」
「何を言っているんだ、君は……」
「すまない……」
「謝る事なんてない! ああ、あんて素晴らしいことだ!」
「許してくれるのか?」
「当然だ!」
「だがお前は俺の間違いのために、三日も学校を休んだじゃないか……」
「そんなことはどうだっていい! 今君がここにいて!
 そして私と共にいると言ってくれている!
 それに比べたら、私が少々落ち込んだことなどなんでもないことだ!」
「サツキ、お前は……なんてヤツだ」
「な、なんだ坂上? 私はまたはしゃぎすぎてしまったのだろうか?」
「いや、そうじゃない。心底お前らしいと思ったんだ。
 そうだ、俺はお前がそうだから……」
「?」
「いや、あとで話そう」
「そうか。まあゆっくりしてくれ……って、あ!
 そ、そうだ坂上! 母さんは!?」
「話したらすぐに通してくれた。
 君の母親は俺とお前がケンカしているとでも思っているらしい。
 仲直りしてくれと言われたよ。
 そして、入れ違いに買い物に出かけた。今は家にはいない」
「そうか……むむ、せっかく来てくれたのだからちゃんと
 紹介したかったのだが……」
「叶うなら、それはあとでお願いしたい」
「そうだな。なら……今日は告白しに来たと言うことだったな。
 それはやはり罪の告白なのか?」
「なぜ、罪だと?」
「『告白と言えば罪』……君の言葉だ」
「そうだったな……確かに、これから話すのは罪の告白だ」
「罪というのが『別れよう』と言ったことなら、それはもういい。
 君がこれからもいっしょにいてくれるなら、私はそれで充分満たされる」
「いや、それだけじゃない……聞いてくれるか?」
「私が君の話を聞かないはずがないだろう?
 君らしくない。遠慮せず話して欲しい」
「ああ。では、俺の間違いについて、順を追って話していこう」
「間違い……?」
「まず、お前の告白を受けたことだ」
「間違いって……告白を受けたことだというのかっ!?」
「すまないサツキ。そういうことじゃない。落ち着いて聞いて欲しい」
「………」
「お前の告白を受けたとき。俺は言ったな。『断る理由がない』、と」
「そうだったな……」
「それは言葉の通りだった。
 俺の見立てではお前はエロかったし、これからもエロくなると確信できた。
 そんなお前が、エロいことを愛している俺に告白してきたのだ。
 断る理由などどこにもなかった。受けた理由はそれしかなかった。
 そこに、好きだとか嫌いだとか、そういう感情はなかった」
「!」
「その、つもりだった」
「つもり……?」
「お前と過ごすうちに、俺は矛盾を感じるようになった。
 俺の期待通りに、お前はエロくなっていった。
 だが同時に……お前は俺の予想し得ないほどによくしゃべり、よく動き、
 よくはしゃぎ、楽しそうだった。
 そんなお前を、俺はいちいちそれをたしなめていたな」
「迷惑をかけたな……」
「そんなことを言うな。俺はな、サツキ。正直言って……それが楽しかったんだ」
「え……?」
「お前とのやりとりは楽しかった。
 それだけで、充分だと思えてしまうほどに、な。
 俺の心を満たすのはエロだけのはずだった。
 だから、そんなことで満ち足りた気分になってしまうのは
 自分でも不思議な気分だった」
「君は本当に根っからそうなんだな……」
「ああそうだ。俺は人間の根本はエロだと思っている。
 人間は、その遺伝子に自らの血を伝えることを使命として刻み込まれている。
 およそほとんどの行動はそれで説明することができる。
 その行き着く終着点――それはエロい事だ。
 だから俺がエロについて興味を持つことを疑ったことはないし、
 躊躇ったことだってない。
 いや……なかった、と言うべきか」
「?」
「サツキ。そんなエロを信奉する俺が、
 お前にはエロい事をしようと思えなかったんだ」
「それは……君にとって、私が魅力的に見えなかったと言うことでは……」
「違う。何度も言ったはずだ。お前はエロい。
 さっきの胸チラはすばらしかった。神懸かっていたと言っていい。
 こうして下半身を見せないようにカバンを配置している
 俺の努力の意味を、お前は慎重に考慮すべきだ」
「な、ななななっ!?」
「お前はエロい。それなのにエロい事ができない……
 その矛盾を漠然とした違和感として抱えた俺は、
 お前に近づきすぎない方がいいと思った。しかし、離れることも考えられなかった。
 ゆえに、俺とお前の間はつかず離れず、つまり『殺伐』であるべきだと思った」
「それでいつもあんな物言いを……」
「言葉遣い自体は地だが、な。
 そして、そんな時がずっと続けばいいと思っていた……」
「……じゃ、じゃあ、どうして私に別れようだなんて言ったんだ?」
「あの日、お前にその矛盾を指摘されたからだ」
「どうして私になにもしないのかと、私は問いかけた……」
「そうだ。だが、当時俺自身にもわからない矛盾だった。
 答を出せなかった。だから、おしまいだと思った。
 もうこの関係を続けられない。ならば、離れるべきだと思った」
「坂上……教えて欲しい。
 君の口振りからすると、もうわかっているんだろう?
 君の矛盾。君はどうして私に、その……手を出さなかったのだ?
 何が間違いだったと言うんだ?」
「傷つけたくなかった」
「え?」
「お前の友人――ナズナに言われたよ。
 エロは、お前の『女』の部分に対して向かうもの。
 しかし俺の気持ちは、『女の子』としてのお前に向いていた。
 綺麗で、けがれのない、エロとは真逆の位置にある『女の子』。
 それが俺の矛盾。
 そしてそれに気づかず、お前に別れを告げたのが俺の間違いだ」
「ナズナに……」
「お前を傷つけたくなかった。
 俺は、お前のことが、愛おしかったんだ……!」
「!」
「だが、結局やったことは間違いだった。なんて無様な話だ。
 俺は自分のことばかり考え、自分が傷つかないようにしていただけだ。
 その結果……こうしてお前のことを傷つけた」
「そんな、私は……」
「お前は寝込んでいるじゃないか。傷ついたからだろう?
 自分がこんなに情けない男だとは思わなかった。
 バカで救いようのない、エロさだけが取り柄の下らない男だなんて……!」
「坂上……」
「すまないな、サツキ。
 俺はやはりお前とつき合わない方がいいのかも知れない……」
「坂上……私のことを見てくれ」
「サツキ……?」
「見てくれ。私のことをちゃんと見てくれ」
「いや、見ている。お前のことを見ている……」
「なら、知ってくれ。君に恋する私のことを知ってくれ。
 私の想いはそんなにやわなものじゃない。ちょっとやそっとじゃ壊れない」
「だが……」
「確かに君に別れようと言われただけで、私は三日も寝込んだ。
 でも、君とつき合っている間の私は強かったはずだ。
 君に指摘され落ち込むことがあった。泣きそうになることもあった。
 でも、君がいれば、君と共に在れば……すぐに笑うことができた」
「サツキ……」
「見てくれ。私のことを……君に恋する私のことを見てくれ」
「恋する、サツキ……」
「私は決して揺るがない。ひるまない。
 君が私と共にいてくれるなら、君が私を好いてくれるのなら……
 なんだって受け入れて見せる」
「!」
「確かに、君の本で見たようなこと全てを
 いきなり求められたら困ってしまうかも知れない。
 でも、きっと大丈夫だ。君が本当に望むのなら、私も応えよう。
 見くびらないで欲しい。恋する乙女は最強なのだ」
「ああ、そうかサツキ。お前は俺のことを好きでいてくれている……
 お前に何度も言われたことのに、俺はちゃんとわかってなかったんだな」
「だから、私のことをもっと見て欲しい。そして、わかって欲しい。
 そんな私が好きになったのが君なんだ。だから、自分を否定しないで欲しい。
 私が好きなのは、エロい事について力強く、真っ直ぐに語る君なんだ。
 君のことが大好きなんだ!」
「サツキ、お前ってヤツは……本当に強いな」
「ふふ、そうだ。強いぞ。でも……まだ、完璧ではないがな」
「なんだと?」
「坂上……言葉が欲しい」
「言葉……?」
「その一言があれば私は無敵に無双に最強に! とにかく、すごくなれる!
 だから、欲しい。君からの一言が欲しい……!」
「………」
「………」
「ああ、そうか。そうだな。俺は言わなくてはならない。お前に応えなくてはならない」
「そうだ、言ってくれ……!」
「好きだ、サツキ」
「………」
「サツキ?」
「も、もう一度言ってもらえないか?」
「好きだ、サツキ」
「も、もう一声」
「サツキ。お前のことが、大好きだ」
「坂上ぃっ!」
「サツキ、落ち着け。抱きつくんじゃない
 おまえの体調はまだ完全ではないのだろう?
 あまり身体に負担をかけるようなことは……」
「坂上! 坂上! 坂上ーっ!」
「サツキ……」
「やっと、やっと聞けた! 一番聞きたかった言葉を!
 夢でしか聞けなかった言葉を! 君の口から聞けた!
 どうしよう!? どうしていいかわからない!
 うれしすぎて心臓が爆発してしまいそうだ!」
「そうだな。すごい動悸だ」
「ああ、でも……坂上!」
「なんだ?」
「君の心臓もすごくドキドキしている……!」
「それは……当然だ」
「そうか……そうだな。当然なんだな」
「ああ、そうだとも」
「ふふ……ああ、それにしてもこんなにハッキリ心音が伝わってしまうなんて
 なんだか恥ずかしいな。
 私の胸がもっと大きかったら、もう少し大人しく伝わってくれたのだろうか?」
「そうだな。だが……
 お前の胸が薄いからこそ、こんなに伝えあうことができる」
「うん。私は初めてこの自分の胸を誇ることができそうだ」
「ああ。素晴らしい胸だと思う」
「ふふ、君らしい物言いだ」
「サツキ、俺はな。抱き合うというのは、エロい事をするための、
 ただの前戯のひとつに過ぎないと思っていた。
 だが、こうして実際にやってみると様々なことを理解できる。
 お前がいつか言ったとおりだ……触れてみなければわからないこともあるんだな」
「……な、なあ坂上?」
「なんだ?」
「君は、その……そうしたことの経験があるんじゃないのか……?」
「なぜそう思う?」
「だって、海で……」
「ああ。サンオイルを塗ったときか。確かにあの時はテクニックを駆使したが、
 あれは全てイメージトレーニングの成果だ」
「イメージトレーニング……?」
「妄想の産物、ということだ。俺は実際に女体に触れた経験がほとんどない。
 これからは実践をふまえ技術の向上を図ろうと思う。
 サツキ、協力をよろしく頼む」
「あ、あれ以上に上手くなろうというのか、君はっ……!」
「ああ当然だ。俺はエロいんだからな」
「むむ、いつもの調子だな」
「……そうだ、サツキ。もうひとつ果たさねばならないことがあった」
「なんだろうか?」
「すまない。正直名残惜しいものがあるが……一旦離れてくれないか?」
「あ、ああ……」
「離れていなくてはお前も濡れてしまうかも知れないからな」
「……?」
「さあ、やるか」
「何をやるつもりなんだ、坂上……?」
「今こそ約束を果たす」
「約束……?」
「ああ、そうだ。約束だ。今ならば果たせる」
 お前と初めてした、一番大切な約束だ」
「初めてした、約束……」
「サツキ……」
「坂上……そんなに見つめられると恥ずかしい……」
「お前の顔をもっとよく見せて欲しい……」
「……!」
「……よし、これだけ見れば充分だろう」
「坂上、こうして見つめ合うのはうれしいことだが、
 君はさっきから何を言っているんだ」
「だから、約束だ」
「……すまない。情けない話だが、君がなんの話をしているのかわからない」
「お前と初めて一緒に登校した日……あの日かわした約束だ」
「ちょ、ちょっと待って欲しい。あの日の記憶はなぜだかは部分的に欠落していて
 うまく思い出せない……」
「ああ、出血がひどかったからな。記憶の混濁もやむを得まい」
「出血……?」
「今こそ、俺もまた血を流し、誠意を示そう」
「いや、まて! ひょっとして私が、その、変な想像をしてしまい
 鼻血を吹いたときのことなのかっ!?」
「ぶふーっ」
「せっかく忘れていたのに……って君! もう鼻血をっ!?」
「ああ、お前の言うとおりだったな……。
 本人を目の前にするとリアルに妄想できるものだぶふーっ」
「ちょっ、うわっ、ティッシュティッシュ!
 坂上、なんて勢いだ! 激しすぎる! 鼻血じゃないみたいだ!」
「………」
「なぜ無言で親指を立てる!? しかも私に向かって!」
「ふっ……」
「そして なんでそんないい笑顔をするのだ!?
 ぐ、グッジョブということなのかっ!? 君の妄想の中で私は何をしたっ!?」
「………」
「………」
「ぶふーっ」
「わあああっ!? 妄想はやめるんだっ! 早く鼻にティッシュを詰めてぇっ!」
「大丈夫だ。俺はいつだってティッシュを用意している。ぬかりはない。
 ほら、止まった」
「よ、よくよく見れば鼻血が飛び散っていない……?」
「ああ。大部分はこのカバンの中に仕込んだビニール袋で受け止めた」
「なんて用意のいい……!
 いや、そういう問題ではなくてっ!
 そもそもいったいどんな妄想をすれば、そんなに鼻血が出てしまうのだ!?」
「ああ、教えてやろう。かいつまんで話すと、だ」
「え……? え? え? ええーっ!?」





「ただいま。どう、サツキ? 彼氏とは仲直りできた?
 ……って、サツキ! この血まみれのティッシュは、それもこんな大量に……!
 なにがあったのーっ!?」
「か、母さんこれはっ!」
「しかも二人して鼻にティッシュを詰めて……なに……なんなの……?
 とにかく救急車呼ばなきゃーっ!!」
「母さん落ち着いてーっ!」





「サツキ、おはよう」
「おはよう! 坂上!」
「昨日、あれからどうだ、サツキ?」
「君が誠意ある対応をしてくれたから、
 母さんは私達の交際について悪印象は持っていない。
 ただ、朝に君の家に食べに行くのは止められた」
「そうか……」
「女の子が朝からあんなに出血することがあったら大変だから、と言う理由で。
 私はそんなに鼻血は吹かないのにな」
「お前はテンションを上げがちだからな。そういう心配もしてしまうのだろう」
「むうう……まあ、それでもこうして一緒に登校できるわけだから……
 それで満足するか」
「そうだな」
「………」
「どうした?」
「それで、坂上? 君は、その……
 昨日話したみたいなことを、やっぱり望んでいるのか?」
「いずれは実現しようと思っている」
「! そ、そうか……」
「怖いか?」
「いや、そうではない。そうではないんだが……。
 あんなことをしたら自分がどうなってしまうんだろうと言う不安はある。
 いや、君がいるのだから不安に思うことなどないのだが」
「サツキ。お前が強いのはわかっている。だが、だからといって無理はするな。
 それに、今すぐ実際にあそこまでやったら……
 俺だってどうにかなってしまうかもしれない。だから言ったのだ。
 いずれ、とな」
「そ、そうか」
「そうだ。俺もお前も実践については初心者だ。二人でゆっくり歩んでいこう。
 二人の時間はこれからずっと続くんだからな」
「坂上……! 君からそんな言葉を言ってもらえるなんて……感動だ!」
「大げさだな。だが、それでこそお前らしい。
 そうだな、今日はまず……第一段階として、手を繋いでいくか?」
「い、いいのか……?」
「当然だ」
「よし、握ったぞ。やっぱりいいなあ、ドキドキする!」
「では、行くか」
「ああ!」
「……そうだサツキ、学校に着いたらナズナに会わせてくれないか?」
「な、ナズナ? どうしてだ?」
「俺の間違いに気づかせてくれたのは彼女だ。礼を言いたい」
「そうか……」
「どうした?」
「……手を繋いだ途端に別の話をされれば、私だって不機嫌にもなる……」
「まったく仕方のないヤツだ、ほら」
「あっ……」
「どうだ、これで安心しただろう?」
「さ、坂上っ! いきなりおでこにチューとはっ!」
「ふむ。やはり唇の方が良かったか?」
「いや、そうじゃなくてっ……!」
「すまないな。まだ舌技についてはイメージトレーニングが不足している。
 唇にキスをするのはもう少し待ってくれ」
「そういうことじゃなくてっ……
 って、いきなりディープなキスをするつもりか君はっ!?」
「そういうものではないのか?」
「違う! それにそもそも……
 キスというのはもっとムードをつくってやるべきだ……!
 朝から、それも不意打ちでなんてっ……」
「そうだな。朝から鼻血を吹いては困る、ということだったからな
 気をつけなくてはならないな」
「そうじゃなくってーっ!」
「落ち着け、サツキ。さっきも言ったろう? 俺達の時間は続く。
 これから、いっぱいいろんなことしよう」
「そうか……そうだな!」
「いっぱいエロいことしよう」
「そ、そうだな」
「さ、行くぞ。サツキ」
「ああ! 行こう! 君と一緒に、どこまでも!」




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