| 前のおねえちゃん | |
「あ、あの……山ヶ崎くんっ……!」 「え……と、君は?」 「と、隣のクラスの半津 モモ(はんづ もも)ですっ! お、お、お昼一緒しませんか?」 「え?」 「ここここれっ! 手作りなんですっ! 良かったら食べてくださいっ!」 「これは……お弁当?」 「一生懸命作ったんですっ!」 「……わるいけど、これは受け取れない」 「……え? ど、どうして?」 「僕には好きな人がいる。だから、こういうのは受け取れない」 「好きな……人が……」 「ごめん……」 「……どんな……人なんですか……」 「名前も知らないし、どこに住んでいるのかも知らない。 一度しか会ったことのない人なんだ」 「そんな人の……どこが好きなんですか?」 「出会ったのは雨の日だった。雨の日なのにその人は、 とても優しく笑う暖かい人で……」 「………」 「パンツを……はいていなかったんだ……」 「!」 おねえちゃん忘れてるっ! その11 おねえちゃんが 思い出の場所で 忘れてるっ! 「モモちゃん……」 「あ……おねえちゃん……」 「ここにいたんだね。探しちゃったよ」 「あはは、やっぱり……わかっちゃったんだ……」 「うん。ここは、思い出の桜の木だもん……」 「おねえちゃん、わたしとケンカするといつもここに来てたわよね……」 「うん……ここはモモちゃんと初めて会った場所だから。 だから、どんなにケンカしても、ここでならやり直せるって思ったの。 そう思っておねえちゃんはいつもここに来たんだ」 「うん。結局いつもここで仲直りしたもんね……」 「………」 「………」 「……モモちゃん。何があったか……話してくれる?」 「話さないって言ったら?」 「いろんなことしちゃう。もーホンキで」 「その妖しい動きはやめてよっ……別に大したことじゃないのよ。 話すほどのことでもないの」 「でも……」 「失恋しちゃったの……」 「!」 「山ヶ崎くん、好きな人がいたのよ」 「そ、そうだったんだ……」 「誰が好きだったか……おねえちゃん、気づいてるんでしょ?」 「………」 「山ヶ崎くん……おねえちゃんのことが好きなんだよ」 「え……え〜っ!?」 「なにおどろいてんのよ?」 「だってだって〜」 「山ヶ崎くん、その人の名前知らなかったんだけど…… でもその人パンツはいてなかったんだって。 そんなのおねえちゃんぐらいじゃない?」 「そ、そんなことないよ〜。いっぱいいるよ〜? 街を歩いている女の人の5人に4人はパンツはいてないよ〜」 「そんな事実はないわよっ!」 「とにかく、パンツはいてないだけじゃおねえちゃんかどうかわからないよ〜」 「わかるわ」 「わからないよ〜」 「わかるのよ、わたしにはっ!」 「モモちゃん……?」 「ちょっと話しただけなんだけどね……わかっちゃうんだ。 山ヶ崎くんの好きな人はほんわかしたやさしい雰囲気をもってるって。 パンツはき忘れるくらいおまぬけでも、 それが欠点に思えないぐらい優しい人なんだって……」 「だからって……」 「そう。それだけじゃおねえちゃんと決めつけられないかも知れない。 でも、でもね。わたしにはわかるのわかっちゃうの。 ……わたしも、同じだから。おねえちゃんのそういうとこが好きだから、 すごくよくわかっちゃうのよ」 「………」 「だから、余計なこともわかっちゃうの。わたしがどんなにがんばっても、 かなわないって。勝てないって。 もう、本当に失恋しちゃったんだって……わかっちゃうの……」 「………」 「でも……でもね、おねえちゃんのことが嫌いになれないの。 山ヶ崎くんに振られたこともショックだったんだけど…… 今は、おねえちゃんをとられちゃうかも、て。そのことが、怖いの……」 「モモちゃん……!」 「あはは。おかしいよね。わたし……おか……しいよね……? うっ……ううっ……」 「……おねえちゃん、ね?」」 「え?」 「モモちゃんのことが好きなんだ。 モモちゃんといつもいっしょにいたいと思うし、 ずっとかまって欲しいって思っちゃうの」 「………」 「ぱんつはき忘れるのもそのせいかもしれない。 そうすれば、モモちゃんが追ってきてくれるから…… だからかもしれないんだよ」 「………」 「………」 「……くすくす」 「モモちゃん?」 「おねえちゃん、おかしいんだ。そんなの変」 「変かな?」 「そうよ。だいたいおねえちゃんがパンツはきわすれるのは お姉ちゃんがおっちょこちょいなせいなんだから。 ちゃんと自覚してなおそうとしなさいよ」 「そうかな〜?」 「そうよ。まったく、いつも変なこと言ってばっかりなんだから。 おねえちゃんの相手をしていると、 ほんと悩んだり泣いてたりする暇なんてないわ」 「モモちゃん……」 「それで、今ははいてるの?」 「え?」 「は〜い〜て〜る〜の〜?」 「うわ、モモちゃん、そんな力強くスカートめくられたら おねえちゃんドキドキして困っちゃう〜」 「ほら、またおねえちゃんてば……ぱんつ……はき忘れてるんだから……」 「? モモちゃん……?」 「おねえちゃんっ!」 「きゃんっ!?」 「ちょっと……ちょっとだけ、胸借りるね……」 「うん。おねえちゃんの胸はいつだってモモちゃんの指定予約席だよっ。 だからこんなにおっきいんだよ」 「おねえちゃんってば、そんなこと言ってばっかり ……ふふ……ふふふ……ふえっ……」 「………」 「おねえちゃん……今だけは……今だけは泣くわよ…… いいわよね?……いいわよね……」 「おねえちゃん、モモちゃんが泣きやむまでずっと 抱きしめてあげるから……ぜったいぜったい、離さないから…… だから、思いっきり泣いていいよ」 「ふえっ……」 「………」 「ふええっ……ふえええぇぇん……」 「モモちゃん……」 「ふえええええええええん……!」 「モモちゃぁん……!」 ・ ・ ・ 「ハンカチ持った? お財布は? 宿題やったノートちゃんと入ってる? パンツはちゃんとはいてる?」 「うん〜、おおむね大丈夫〜」 「よし、じゃ学校行きましょっ!」 「うん〜。へへへ〜」 「な、なによ?」 「モモちゃんと並んで歩いて学校いくの久しぶり〜」 「そうかしら?」 「そうだよ〜。いつもはどっちかが先に行くか走って行くかだもん〜」 「それは……おねえちゃんの朝のスケジュールが めちゃくちゃだからでしょっ!? 合わせるにも限界があるわよっ! そして走っていくのはおねえちゃんがはき忘れるからっ!」 「えへへ〜」 「まったく、いつもそーゆー笑顔でごまかすんだから。ずるいわっ」 「へへ〜……ね、モモちゃん?」 「ん?」 「元気?」 「……元気、よ」 「……よかった〜」 「当たり前じゃない。それで、さ」 「ん?」 「おねえちゃんは……その……どうするの?」 「……どうもしないよ」 「どうも……しない?」 「うん。山ヶ崎くんがおねえちゃんのことを見つけて、 それで告白してきてから考えるの」 「いい加減ね〜」 「おねえちゃんだって……そういうのは怖いんだよ。 自分から名乗り出るなんてできない。 それに、山ヶ崎くんのことモモちゃんより好きになれるか 分からないから……」 「なによそれ?」 「おねえちゃんの彼氏になる人は、 まずモモちゃんに勝たなきゃいけないの」 「なによ、なんかえらそう。わたしは振られたのよ。 その私の前でよくそんなこと言えるのね」 「モモちゃんの前だからだよ。 モモちゃんの前だから、嘘はつかないし本音も隠さないよ」 「………」 「………」 「……おねえちゃんにはかなわないな、ほんと……」 「えへへ〜」 「ほんとにっ……! でも、そーゆーこと言う前に、 ちゃんとして欲しいことがあるわ」 「え?」 「聞き逃さなかったわよ。さっき”おおむね”って言ったわよね? そして見逃さなかったわよ。 いまちょっとめくれて見えたスカートの中」 「………」 「おねえちゃん、ぱんつ……はき忘れてるわよっ!」 「わあああん、モモちゃんが怖いーっ!」 「だからどうしていつもいつも逃げるのよっ!? 待てーっ! ちゃんとはきなさいーっ! って言うかはかすーっ!!」 「うわああああん、いーやー!」 「待ああああてぇぇぇぇぇぇっ!」 了 |
|
| 前のおねえちゃん | |
| HPトップへ | |